Bouquet of Roses
つまり、この広大な宇宙から見た僕らは本当に小さな存在で、僕達が出会ったのも些細な偶然でしかない。
でもその偶然の中にこそ、「運命」が隠されていると思うんだ。
君はどう? 運命って信じる?
僕はもちろん信じてるよ。
1.By a twist of fate.
リリー・エバンスは、途方に暮れていた。
周りを行き交う人々は、大荷物を持った彼女をいかにも邪魔そうに見遣り、目的のプラットホームに向かい、急いで歩く。
リリーは今、キングズクロス駅九番線の前に立っている。
「(ペチュニアが嫌そうだったから一人で来ちゃったけど・・・迂闊だったわ。九と四分の三番線なんて、一体どこにあるのかしら?)」
駅員に聞けば、そんな線路は存在しないと言われ、通りかかった人に聞けば、ふざけているのかと怒られ・・・全く。そんなつもりなんて、これっぽっちもないのに・・・
と、ここで回想に耽っている場合ではない。プラットホームを探せなければ、学校に行けないではないか。
駅の時計の針は、十時五十分を指している。急がないと・・・・・・
その時、目の前を通った少女に、リリーの目は釘付けになった。
リリーの憧れる金髪。一瞬見ただけだが、琥珀色の綺麗な瞳と、きめ細かい真っ白な肌。何よりも、その少女の持っていたスーツケースはリリーの物と、全く同じだった。つまり、紋章が入った、ホグワーツ魔法魔術学校のスーツケースだ。
この機会を逃してはならない。リリーはそう感じた。
荷物を引きずり、彼女は急いで少女の後を追った。
少女は九番線と十番線の間の柵に向かい、一直線上に立っていた。
人がたくさん居るけれど、何とか押し進んでいける程度だろう。
彼女には今まで柵を通り抜けた経験など無い。
ホグワーツの入学許可証をもらい、行き方を教わった日、その貴重な経験ができる喜びのあまり、家中の人間に
「ねぇ聞いて! あたし柵を通って学校に行くの!」
と言って回ったほどだった。
さて、現在前方に見えるのは問題の柵。少女は嬉しくて、小さく笑う。
そしてカートを押し、歩き出す。
「あ、あの!」
「う?」
少女が振り返ると、そこには綺麗な赤毛の少女が立っていた。彼女こそがリリー・エバンスである。
リリーは不安そうに少女に声をかけた。
「あの・・・あなた、ホグワーツに行く?」
少女は頷く。
安堵で体中の力が抜けそうになるリリー。笑みを漏らし、少女に尋ねた。
「私、新入生なんだけど、プラットホームへの行き方が分からなくて・・・・・・」
それを聞いて、少女は丸くて大きな瞳を瞬いた。
「あなた、マグル出身?」
「マグ・・・え、何?」
「にゃ。ううん、何でもない」
耳慣れない単語にリリーは一瞬戸惑うが、少女は一人、うんうんと頷いた。
「そっかそっか。うん分かった、一緒に行こう!」
彼女は笑ってリリーのカートを引き寄せた。
自らのカートとぴったりくっつける。
「さ、行こっか」
「ちょっ、待って! 前には柵が・・・」
「う? あれを通るのよ?」
「何ですって!? ぶつかるに決まって・・・」
少女はにっこりと可愛らしく笑うと、リリーの肩を一度叩いた。
そして柱に向かって走り出す。
「そこが魔法の醍醐味だよっ!」
「待ってったら!」
リリーははぐれたくない一心で後を追った。
気付けばどこからか汽笛が聞こえてきて。目を開ければ紅の汽車を見つけ、たくさんの人が居て。
そして目の前に金髪の少女は立っていた。
興奮したような、何かをやり遂げたような上気した顔。
彼女は振り向き、リリーの手をとった。
「たっのしかったねー!」
「・・・え?」
「もっかい行ってくる!」
そう言うが早いか、勇んで元の方向に戻ろうとする。リリーは腕を掴んで引き止めた。
「待って待って!時間が無いわ、汽車が出ちゃう!」
彼女はきょとんとした顔でリリーを見つめ、やがて合点したように汽車を見た。
「あ、そっかぁ」
リリーは先ほどとはまた違う意味で力が抜けた。
少女の手を引く。
「行きましょう。私は、リリー・エバンス」
少女はにっこり笑った。
「あたし、・。ちっちゃいからわかるだろうけど、新入生よ」
それが、彼女との出会いだった。
同じ頃、新入生シリウス・ブラックは通路を歩いていた。
というのも、どこかにスーツケースの鍵を落としてしまったのだ。
これは一大事で、鍵開け呪文を知らない彼にとっては、思わず顔面蒼白になってしまうほどの出来事だった。
たとえ鍵開け呪文を知っていたとしても、閉まらなければ意味がないのだが。
金色の鍵、金色の鍵・・・とブツブツ呟きながら歩く彼を見て、女子生徒たちが振り返る。そして皆一様に頬を赤らめた。
漆黒の髪、灰色の瞳、整った顔立ち。
彼の噂は、本人の知らぬ間に広まっていった。
「重い・・・」
少年はスーツケースに片手を乗せ、荒い息をついていた。
肩に乗っていた黒猫が、急かすように車内に飛び移る。
「分かったけど・・・もう少し待ってよカレッジ。重いんだよ? コレ」
そう言うと少年は再びスーツケースを車内に乗せようと格闘しだした。しかし、彼の力ではどうにも上がる気配を見せない。
参ったな、と思いながらスーツケースを抱えあげた時、急に手から重みが消え去った。
「っと・・・大丈夫か?」
少年が見上げた先に居たのは、シリウス・ブラックだった。
シリウスは少年も車内に引っ張り上げる。ちょうどその時、汽車が動き出した。
「危ないところだったな、お前」
「うん、本当だよ。どうもありがとう」
「ところでよ、ここらで金色の鍵見なかったか? スーツケースのやつなんだけど、落としちまって・・・」
鍵?と呟き、少年は首をひねった。
足元の猫が口を開く。
「さっき拾ってたろ? あれじゃないか?」
「うおっ! 猫が喋った!?」
驚くシリウスとは対照的に落ち着いた様子で、少年はポケットに手を入れた。
「ああコレか。君のだったの?」
鍵を差し出すと、シリウスは猫に目をやったまま受け取った。
「サンキュー。なあ、こいつ何?」
そう尋ねると、少年はくすくす笑った。
「ただの猫じゃないからねー。コイツは僕の使い魔でカレッジっていうんだ。で、僕は、一年だよ」
少年は、は名を告げる。穏やかに笑む彼を見て、シリウスは首を傾げた。
「使い魔って・・・お前、もしかして・・・!」
「しーっ!」
はシリウスの口を必死で塞ぐ。
周りのコンパートメントからは、シリウスの大声を聞いた人が顔を出していた。
それら全てを無視し、シリウスの腕を掴んでは歩き出す。
「ここだと大騒ぎになる」
「あ、ああ、そうだな。ゴメン。
俺のコンパートメントに来ないか? 俺の名前は、シリウス・ブラックだ」
「お言葉に甘えて。邪魔するよ、シリウス」
彼はそう言って、綺麗に笑った。
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